コラム

 公開日: 2014-11-04  最終更新日: 2015-06-05

【32.営業秘密の保護】

☆逐次、情報を更新しておりますので、最新の情報は、当事務所のホームページをご覧ください。
http://www.taguchi-shihou.com/gyoumu/index.html


 (当事務所の取扱業務)
(1)文案作成に関する業務
①就業規則・営業秘密管理規程・文書管理規程・営業秘密保持誓約書・営業秘密不正使用者に対する警告書等の文案書類作成代理
②上記文案書類作成の相談
(2)営業秘密の不正取得・使用開示行為に対する民事上の請求
①損害賠償請求に関する簡易裁判所関係訴訟代理(訴額金140万円以内の訴訟)
②上記①に関する法律相談
③損害賠償請求に関し地方裁判所へ提出する書類(訴状・準備書面等)の作成
④「差止め(営業秘密についての侵害停止、予防のための必要な措置)」・「信頼回復措置請求(故意又は過失により営業上の信用が侵害された場合の謝罪広告等必要な措置)」等に関し地方裁判所等へ提出する書類(訴状・準備書面等)の作成
④上記「③・④」の書類作成の相談
(3)営業秘密侵害の罪(営業秘密の不正取得・使用開示行為)に関する刑事告訴・刑事告発
①告訴状・告発状の作成
②告訴状・告発状作成の相談
*「不正の利益を得る目的」又は「営業秘密の保有者に損害を与える目的」で行った営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示のうちの一定の行為は、下記のような刑事上の責任を問われます。
・ 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金(又はその両方)
・ 10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金(又はその両方)
・ 一部の営業秘密侵害の罪については、法人の業務として行われた場合、その行為者が処罰されるほか、法人も3億円以下の罰金が科されます。


(第1 営業秘密保護の必要性・強化)
(第2 不正競争防止法と営業秘密の関係)
(第3 営業秘密の意義・内容等)
(第4 社員を中途採用した会社等に対する「営業秘密保護」についての警告)
(第5 取引における善意者の保護)
(第6 民事上の請求権の内容)
(第7 刑事罰の適用)
(第8 営業秘密管理の実際・競業避止義務の有効性に関する見解)
(第9 営業秘密管理の実務)
1 営業秘密保護の必要性と強化
(1) 営業秘密保護の必要性
近年、国内的、世界的に、「①技術の高度化・複雑化 ②経済のソフト化・サービス化の進展 ③ノウハウ取引の活発化 ⑤雇用形態の流動化」など様々な変化が見受けられます。
・そして情報のデジタル化、社会ネットワーク化、人材の流動化が急速に進展したため、営業秘密が同種の企業に流出し多大な損害を被る事態が増え続けています。
・そこで、営業秘密の「民事的保護」と「刑事的保護」を図る必要性が生じました。
(2) 営業秘密保護の強化
営業秘密保護に資する法律は、現在のところ、不正競争防止法のみです。
・不正競争防止法の度重なる改正により、営業秘密保護は、下記のように強化されています。
ア 平成2年の不正競争防止法改正により、営業秘密の侵害に対して、民事的救済が可能となりました。
(民事的救済の内容)
① 差止請求権
営業秘密の侵害停止、予防のための必要な措置を請求できます。
② 侵害行為に関連した物や設備の廃棄・除却請求が可能です。
③ 損害賠償請求権
営業秘密を侵害されたことに対する損害賠償請求ができます。
④ 信用回復請求権
謝罪広告等の信用回復請求ができます。
イ 平成15年の「不正競争防止法の改正内容」は、下記のとおりです。
① 刑事罰(営業秘密侵害罪)の導入
② 民事的救済措置の強化(損害行為や侵害行為の立証の容易化)
ウ 平成17年及び平成18年の不正競争防止法の改正
「刑事罰」の更なる強化
エ 平成21年の不正競争防止法の改正
① 第三者等による営業秘密の不正な取得に対する刑事罰の対象範囲の拡大
② 従業者等による営業秘密の領得自体への刑事罰の導入
オ 平成23年の不正競争防止法の改正
刑事訴訟における営業秘密の内容の保護を図りました。
カ 経済産業省は、平成27年1月28日、企業の「営業秘密管理指針」を全部改定しました。
・これまでは、企業が情報を不正に漏洩されたとして訴訟を提起しても、その情報が「営業秘密」に認定されるためには、被害企業において、営業秘密が何重もの措置を講じて厳重に管理していたかが問われる例が大変多く、管理方法の簡素化が要望されていました。その要望を受け、今回の改正となったのです。

2 不正競争防止法と営業秘密の関係(平成27年1月28日以降)
ア  不正競争防止法の位置づけ
不正競争防止法は、下記の行為を不正競争として禁止しています。

他人の技術、商品開発等の成果を冒用する行為等
(具体的事例)
不正競争防止法は、下記行為を差止の対象としており、不法行為(民法709条以下)の特則として位置付けています。
(ⅰ) ブランド表示の盗用、形態模倣
(ⅱ) 営業秘密の不正取得、使用、開示行為等
イ 不正競争防止法における営業秘密の意義
下記の3要件のすべてを満たすことが、営業秘密として、不正競争防止法による保護を受けられる要件となります。
① 秘密管理性
秘密として管理されていること。
② 有用性
生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること。
③ 非公知性
公然と知られていないこと。
ウ 営業秘密の侵害と「民事・刑事上の措置」との関係
営業秘密を侵害した場合、不正競争防止法に基づく民事上「の差止め」をはじめとする「民事上、刑事上」の措置の対象となります。
エ 契約による「営業秘密に関する情報」の保護
営業秘密に該当しない情報は、不正競争防止法の保護を受けることはできません。
・しかし、民法その他の保護を受けることができます。

3 営業秘密の意義・内容等 (平成27年1月28日以降)
(1) 営業秘密の意義
営業秘密とは、企業が秘密として管理している技術上又は営業上の情報の中で、不正競争防止法の3要件(①秘密管理性 ②有用性 ③非公知性)のすべてを満たしている情報のことです。
*「企業秘密」と「営業秘密」の相違
① 企業秘密
企業秘密とは、企業が秘密としている「技術、ノウハウ、経営情報、顧客情報等」のことです。
② 営業秘密
営業秘密とは、企業秘密とされる情報のなかで、不正競争防止法の3要件(①秘密管理性 ②有用性 ③非公知性)を満たしているものだけをいいます。
(2) 営業秘密の例
① 技術上の情報
製造技術、製品仕様、製造原価、実験データ、研究レポート等
② 営業上の情報
顧客名簿、販売マニュアル、市場調査情報、営業戦略情報、仕入先リスト、販売計画資料、見積資料等
(3) 営業秘密の3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)の意義等
ア 秘密管理性の考え方
(ア) 秘密管理性要件の趣旨
秘密管理性要件の趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにあります。
・ つまり、企業が秘密として管理しようとしている対象が明確化されることによって、当該営業秘密に接した者が、事後に不測の嫌疑を受けることを防止し、従業員が安心して業務を行うことできるようにすることです。
* 留意事項
秘密管理要件については、情報につき、相当高度な秘密管理を行った場合にしか法的保護が与えられないとすることは、適切ではありません。
(理由)
① 現実の経済活動においては、営業秘密は、それを保有する企業の内外で組織的に共有され活用されることによって効用を発揮するものであること。
② 営業秘密が、会社の維持、発展の原動力となる中小・零細企業に、完全に近い秘密管理を求めることは、経費が掛かりすぎること等から非現実的であること。
③ 下請企業に関する情報や個人情報等の営業秘密が漏洩した場合、その被害者は、営業秘密保有企業だけとは限らないこと。
(イ) 必要な「秘密管理措置」の程度
あ 「秘密管理性要件」が認められるには
営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって、従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。
い 具体的に必要な「秘密管理措置の内容・程度」等
(秘密管理措置の内容)
秘密管理措置の内容は、企業の規模、業態、従業員の職務情報の性質その他の事情いかんによって異なります。
・ 営業秘密保有企業が、当該情報を秘密であると、主観的に認識しているだけでは不十分です。
・ 具体的状況に応じて、合理的な秘密管理措置によって、従業員に明確に示され、結果として従業員が容易に認識できることが必要です。
・ 取引先相手に対する秘密管理意思の明示についても、対従業員と同様に考えられます。
(秘密管理措置の程度)
秘密管理措置の程度は、企業における営業秘密の管理単位(下記記載)における従業員が、それを一般的に、かつ容易に認識できる程度ものである必要があります。
(秘密管理措置の対象者)
秘密管理措置の対象者は、従業員です。
(ウ) 秘密管理措置の具体例
秘密管理方法としては、媒体(伝達の媒介となる手段)に対するもの以外に、媒体を利用せず、「無形の情報として管理」したり、「情報に合法的かつ現実的に接触する者を限定」する方法など考えられます。
① 紙媒体の場合
(ⅰ)ファイルの利用等による方法
ファイルの利用等により、一般情報との合理的な区分を行った上で、その文書に「マル秘」など秘密であることを表示する方法。
(ⅱ)金庫等への保管
施錠可能な金庫等へ保管する方法。
② 電子媒体の場合
電子情報の場合、次のいずれかの方法により秘密管理措置をとることができると考えられています。

(ⅰ)記録媒体へ、「マル秘表示」の貼付
(ⅱ)電子ファイル名・フォルダ名への「マル秘」の付記
(ⅲ)営業秘密たる電子ファイルを開いた場合に、端末画面上に「マル秘」である旨が表示されるように、当該電子ファイルの電子データ上に「マル秘」を付記
(ⅳ)営業秘密たる電子ファイルそのもの又は当該電子ファイルを含むフォルダの閲覧に要するパスワードの設定
(ⅴ)記録媒体そのものに表示を付すことができない場合には、記録媒体を補完するケース(CDケース等)や箱(部品等の収納ダンボール箱)に、「マル秘」表示を貼付
③ 物件に営業秘密が化体している場合
「製造機械や金型、高機能微生物、新製品の試作品」など、物件に営業秘密情報が化体しており、物理的に「マル秘表示」の貼付や「金庫等への保管」に適さないものについては、下記のようないずれかの方法を講じることによって、秘密管理措置になり得ると考えられています。

(ⅰ)扉に「関係者以外立入禁止」の張り紙を貼る。
(ⅱ)「警備員を置く」・「入館IDカードが必要なゲートを設置する」などして、工場内への部外者の立ち入りを制限する。
(ⅲ)「写真撮影禁止」の張り紙をする。
(ⅳ)「営業秘密に該当する物件を営業秘密リストとして列挙」し、当該リストを営業秘密リストに接触し得る従業員に閲覧できるようにしておく。
④ 媒体が利用されない場合
例えば、「技能・設計」に関するものなど、従業員が体得した無形のノウハウや従業員が職務として記憶した「顧客情報等」については、従業員の予見可能性を確保し、職業選択の自由にも配慮する観点から、原則として、下記のような形で、その内容を「紙その他の媒体に可視化」することが必要になります。

(ⅰ)営業秘密の範疇をリストすること
(ⅱ)営業秘密を具体的に文書等に記載すること
⑤ 複数の媒体で同一の営業秘密を管理する場合
複数の媒体で同一の営業秘密を管理する場合は、それぞれについて秘密管理措置が講じられる必要があります。
(エ) 営業秘密を企業内外で共有する場合の「秘密管理性」の考え方
企業内(支店、営業所等)、企業外(子会社、関連会社、取引先、業務委託先、フランチャイジー等)と営業秘密を共有する場合は、下記のようになります。
① 社内の複数個所で同じ情報を保有しているケース
秘密管理性の有無は、法人全体で判断される訳ではなく、営業秘密たる情報を管理している独立単位(以下、「管理単位」という。)ごとに判断されます。
・当該管理単位内の従業員にとって、当該管理単位における秘密管理措置に対する認識可能性が必要です。
② 複数の法人間で同一の情報を保有しているケース
秘密管理性の有無は、法人(具体的には、前述の「管理単位」)ごとに判断されます。
・別法人内部での情報の具体的な管理状況は、自社における秘密管理性には影響しないことが原則です。
イ 有用性の考え方
有用性が認められるためには、その情報が客観的にみて、「事業活動にとって有用である」ことが必要です。
・企業の反社会的な行為などの公序良俗に反する内容の情報は、「有用性」 が認められません。
(ア) 有用性の要件
公序良俗に反する内容の情報など、法律上、秘密として保護されることに正当な利益が乏しい情報は、営業秘密の範囲から除外されます。
・営業秘密保護は、広義で、商業的価値が認められる情報を保護することが主眼です。
(イ) 事業活動への利用・ビジネス情報等
現に、事業活動に使用・利用されていることは必要ありません。
・営業秘密には、間接的に価値ある情報(失敗例)も含まれます。
(ウ) 公知の情報との関係
同業者であれば、公知の情報を組み合わせることによって、容易に当該秘密情報を作出できる場合であっても、有用性が失われることはありません。
(エ) 有用性の具体例
有用な情報とは、「生産活動、販売活動、研究開発等の事業活動」に具体的に役立つ情報であることが客観的に認められているという意味です。
あ 事業活動に有用な情報の例
① 製造ノウハウ、成分の組成、実験データ、顧客名簿等
② 開発に失敗した新製品のレポート
・例えば、新製品の開発に関し、否定的結果の出た実験データ
(理由)
否定的結果の出た実験データなどは、その情報により失敗を繰り返さない参考資料とすることができるので、有用といえます。
い 事業活動に有用でない情報の例
① 反社会的情報
・このような情報は、企業にとっては大事と思われても、社会的に有用とはいえません。
(例)
(ⅰ) 企業の脱税情報
(ⅱ) 企業の有害物質の不適当な処理情報等
② 経済的価値を生み出さない情報
(例)
(ⅰ)取締役のスキャンダル情報
(ⅱ)企業の人事異動の情報
ウ 非公知性の考え方
「非公知性」が認められるには、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要です。
・企業が管理し、一般には知られていない情報であることが必要です。
*ある企業が、他の企業と同じノウハウを偶然に開発したとしても、他の企業がその情報を開示していない場合は、非公知といえます。
(ア) 「公然と知られていない」状態とは
「当該営業秘密が、一般的に知られていない状態」又は「容易に知ることができない状態」のことです。
(例)
当該情報が、普通に入手し得る刊行物には記載されていない場合。
(イ) 「営業秘密における非公知性」の要件
発明の新規性の判断における「公然知られた発明(特許法法29条)」の解釈とは、一致しません。
* a 特許法における「非公知性」の解釈
特定の者しか当該情報を知らない場合でも、当該者に守秘義務がない場合は、特許法上の公知となり得ます。
b 営業秘密における「非公知性」の解釈
特定の者が、事実上、秘密を維持していれば、なお「非公知性」と考えることができる場合があります。
(ウ) 当該情報が、「外国の刊行物」に、過去に掲載されていた場合
当該情報が、実は外国の刊行物に過去に掲載されていたような状況であっても、当該情報の管理地においてその事実が知られておらず、その取得に時間的・資金的に相当のコストを要する場合には、非公知性は、なお認められます。
(エ) ある情報の断片が「様々な刊行物」に掲載されていた場合
「営業秘密」は、様々な知見を組み合わせて一つの情報を構成していることが通常です。
・しかし、ある情報の断片が様々な刊行物に掲載されており、その断片を集めてきた場合、当該営業秘密たる情報に近い情報が再構成され得るからといって、そのことをもって、直ちに、非公知性が否定される訳ではありません。
(4) 営業秘密の管理方法
ア 秘密として管理されているためには、下記規則等の作成と、下記のような管理をすることが必要です。
(管理に必要な規則等)
① 就業規則(又は、入社時・退社時の秘密保持誓約書)
② 営業秘密管理規定
③ 文書管理規定
イ 管理方法
① 営業秘密と認識できるように、「営業秘密管理規定・文書管理規定」の中に「極秘」・「マル秘」等の表示をしておくこと。
② 営業秘密にアクセスできる者を限定し、その者の権限なしに使用開示してはならない旨の義務を課しておくこと。
③ 資料の保管、保存、廃棄などの方法を決めておくこと。

4 社員を中途採用した会社等に対する「営業秘密保護についての警告」
営業秘密情報を持っている従業者が、競業する会社に中途採用された場合は、営業秘密を保護したい会社(中途採用された人が前に努めていた会社)は、中途採用した会社に対し、中途採用した人から「営業秘密情報の開示を受けたり、使用したりしないよう警告すること」ができます。

5 商取引における善意者の保護
取引の相手方が、「営業秘密の取得・開示が、不正行為によるものだとは知らず(故意又は重過失がなくして知らないこと:善意者という。)に売買契約やライセンス契約等の取引をした場合」は、有効な取引として扱われます。

6  民事上の請求権の内容
ア 不正競争防止法おいて、民事上、下記の4つの請求権が認められています。
① 差止請求権(不正競争防止法3条1項)
営業秘密の不正行為によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者は、その「停止、予防」を求めることができます。
・なお、その場合は、「侵害の差止仮処分」を申し出た上で、「侵害差止請求の訴え」を提起するのが通常です。
(理由)
侵害差止請求訴訟の判決確定までは、かなりの時間が掛かるので、保全のため仮処分をしておいて、それから訴訟を提起することにより、本来の目的を達成する方法をとることがベターです。
② 侵害行為に関連した物や設備の廃棄(不正競争防止法3条2項)
上記①の請求を更に効果的にするため、不正行為が2度と行えないよう、「不正行為によって製造された物や営業秘密を収録した資料・フロッピィーディスクの廃棄」、「製造ノウハウを不正使用した製造設備の廃棄」などを請求することができます。
・また、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができます。
③ 損害賠償請求権(不正競争防止法4条)
営業秘密の不正行為により営業上の利益を侵害された場合は、損害賠償の請求ができます。
④ 信用回復の措置(不正競争防止法14条)
営業秘密の不正行為により信用を害された場合は、謝罪広告等の信用回復措置を求めることができます。
イ 差止請求権者の要件
差止請求権者とは、営業秘密に関する不正行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者のことです(不正競争防止法3条)。
* ① 「営業上の利益を侵害された者」とは
営業秘密を保有する事業者(保有者)であり、その営業秘密の創出者、ライセンシー・フランチャイジャーなど適法に営業秘密を取得した者、雇用関係等の信頼関係に基づき開示を受けた者などが含まれます。
② 「利益を侵害されるおそれ」とは
現実に、営業上の損害が発生する必要はなく、将来の利益侵害の発生について
相当の可能性があれば足ります。
ウ 差止請求権の消滅時効・除斥期間(不正競争防止法15条)
(ア) 差止請求権の「短期消滅時効・除斥期間」は、下記のとおりです。
① 短期消滅時効
不正使用の事実及び不正使用者を知った時から3年間、「差止請求」をしなかった場合は、差止請求権は消滅します。
② 除斥期間
不正使用開始の時から10年間経過した場合には、差止請求ができなくなります。
(イ) 差止請求権の「消滅時効・除斥期間」と「損害賠償請求権」の関係
差止請求権の消滅時効が成立した場合及び除斥期間が経過した場合の損害賠償請求権は、「不正競争防止法」にもとづく場合と「民法」に基づく場合で、相違が生じます。
① 不正競争防止法に基づく損害賠償請求権(不正競争防止法4条ただし書き)
差止請求ができなくなった時点で、「清算・販売・研究開発などの使用行為」から生じた不正競争防止法に基づく損害賠償請求権は消滅します。
・ つまり、損害賠償請求権は、差止請求権と運命を共にし、差止請求権が3年の消滅時効又は10年の除斥期間によって消滅すれば、損害賠償請求権も消滅し、その後の使用行為により生じた損害については損害賠償請求権も発生しません。
② 民法に基づく損害賠償請求権(民法724条)
差止請求ができなくなった以前に生じていた損害であっても、不正行為の損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年間は、損害賠償請求ができます(民法709条、724条)。
・ つまり、経過した消滅時効又は除斥期間中に既に発生している損害賠償請求権については、民法724条により、「加害者を知った時から3年間」又は「不法行為の時から20年間」は損害賠償請求が可能です。

7  刑事罰の適用(不正競争防止法21条、22条)
ア 刑事罰の適用
一定の不正行為に対しては、刑事罰が適用されます。
・不正競争防止法の刑事罰の適用の仕方は、下記のとおりです。
① 不正行為があった場合、当然、刑事罰が適用される行為
② 不正行為があっても、被害者が告訴(親告罪)しなければ刑事罰の対象とならない行為
イ 不正行為の内容により、下記のような刑事罰が科されます。
① 不正競争防止法条21条1項に該当する不正行為について
・不正競争防止法条21条1項と21条2項6号(秘密保持命令違反した者)に該当する不正行為は、親告罪です(告訴がなければ公訴を提起することができません)。
・10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。
② 不正競争防止法21条2項に該当する不正行為について
5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます。
③ 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、法人又は人の業務に関し一定の違反行為をした場合(不正競争防止法22条1項)
・行為者を罰するほか、法人に対しては3億円以下の罰金刑が科されます。

8 「営業秘密管理の実際」・「競業避止義務契約の有効性に関する見解」
(1) 営業秘密管理の実際
ア 営業秘密保護の根拠法令
営業秘密保護の根拠法令は、現在のところ「不正競争防止法」のみです。
・また、これを解釈する権限があるのは裁判所であって、行政当局ではありません。
・したがって、書類に「マル秘事項」と書いてあったとしても、それを根拠として、裁判所が「損害賠償」や「侵害の差止め」を容認するとは限りません。
・営業秘密管理指針は、あくまでも行政としての指針と捉えておくべきです。
イ 不正競争防止法の営業秘密の定義
不正競争防止法においては、「秘密として管理されていること」とは、情報アクセスする者にとって、その情報が客観的に秘密であることが認識できる程度に合理的ものとなっていれば足ります。
ウ 営業秘密の「保護要件」と「営業秘密管理指針」についての現状認識
営業秘密の保護要件については、裁判所の判断が緩和されたり厳格になったりと変遷が見られます。
・そこで、営業秘密管理指針についても、最近の裁判例を参考にして運用すべきです。
エ 営業秘密保護法制について
昨今の激しい企業間競争においては、営業秘密の価値は上昇しており、営業秘密抜きでは経営が成り立たないという状況にあります。
・そこで、「営業秘密保護法」の成立を要望する声が大になっています。
(2) 「競業避止義務契約の有効性」に関する見解
ア 「競業避止義務契約締結」に際して考慮すべき事項
① 企業側に「営業秘密等の守るべき利益」が存在すること。
② 上記「守るべき利益」に関係する業務を取り扱っていた「従業員等の特定の者」が対象であること。
イ  「競業避止義務契約の有効性が認められる可能性」が高い事項
① 競業義務避止期間が1年以内となっていること。
② 禁止行為の範囲につき、業務内容や職種等によって限定を行っていること。
③ 代替措置(高額な賃金など、「みなし代償措置」といえるものを含む)が設定されていること。
ウ  「労働法との関係」における事項
① 就業規則に規定する場合については、個別契約による場合がある旨を規定しておくこと。
② 当該就業規則について、入社時の「就業規則を遵守します」等といった誓約書を通じて従業員の包括同意を得るとともに、十分な周知を行うこと。
エ  「競業避止義務契約の有効性が認められない可能性」が高い事項
① 業務内容等から、競業避止義務が不要である従業員と契約していること。
② 職業選択の自由を阻害するような広範な地理的制限をかけていること。
③ 競業避止義務期間が2年超となっていること。
④ 禁止行為の範囲が、一般的・抽象的な文言となっていること。
⑤ 代償措置が設定されていないこと。

9 営業秘密管理の実務
営業秘密管理は、下記のよう方策をとっておくことが大事です。
(1) 責任者と体制
管理する体制と責任者を決定します。
(2) 営業秘密の抽出・指定
①営業秘密候補の「抽出」と「指定」を行います。
(営業秘密候補の参考例)
(ⅰ) 自社の強みとなる知的資産
a 個性的な製品等を完成させるための技術・ノウハウ
b 事業者のブランド力
c 顧客のニーズに適った製品等を提供する営業力
d 高い技術を有する従業者
(ⅱ) 自社の強みとなる情報資産
a 製造プロセス・段取りに関する情報
b 製品仕様書(構造・成分内訳等・規格書)
c 独自開発の技術情報
d 製造協力先・下請事業者の情報
e 有力販売先情報
f 市場動向・分析情報
g 仕入先・販売先・品目・数料・価格情報等
h 競合先分析情報
i セールス資料(見積書・プレゼン資料等)
j 顧客との打合せ資料
k 技術者教育・育成に関する情報
②営業秘密の「抽出・指定」の方法
(ⅰ) a 現場から営業秘密候補を出してもらい、取締役会(取締役会がない会社では取締役の多数決)で決定する。
b 最初から取締役会(取締役会がない会社では取締役の多数決)で決定する。
③知的財産権とするか営業秘密にするかの検討
技術情報等は、特許等の知的財産権化とすることも選択対象となります。
・ そこで、技術情報等は知的財産権化するか、営業秘密として管理するかの検討が必要となります。
④営業秘密の要件を満たしているか否かの検討
不正競争防止法の営業秘密の要件のうち、「有用性」・「非公知性」を満たしているかについて確認することが必要です。
⑤営業秘密の具体的な範囲を決定すること
営業秘密の具体的な範囲を、従業者等が認識できる程度に決定することが必要です。
⑥営業秘密の3要件(有用性・非公知性・秘密管理性)の解釈
(ⅰ) 有用性
有用性とは、「生産方法、販売方法その他の事業活動」に有用な技術上又は営業上の情報のことです。
・有用性は、保有者の主観ではなく、客観的に的にみて有用か否かで判断されます。
(例) a 製品の設計図・製造方法
b 顧客名簿
c 販売マニュアル
d 仕入先リスト
(ⅱ) 非公知性
非公知性とは、公然と知られていないということです。
・その情報が、刊行物に記載されていないなど、保有者の管理下以外では、一般的に入手することができない状態にあることを意味します。
(例) 刊行物に限らず、インターネットその他で、一般的に入手できる情報は、非公知性が認められません。
* 刊行物の意義
書籍などを印刷して世に出すこと。出版。
(ⅲ) 秘密管理性
秘密管理性とは、秘密として管理されているということです。
・秘密として管理されていることの要件
a 保有者が、主観的に秘密にしておく意思を有していること。
b 従業者・外部の者から客観的にみて、秘密として管理されていると認められる状態にあること。
・具体的内容
a 情報に触れることができる者が制限されていること。
b 情報に触れた者に、その情報が秘密であることが認識できるようにされていること。
(3) アクセス権者
重要な情報であればあるほど、その情報に触れることができる者を制限します。
①誰が、情報に触れることができるか。
・例えば、総務部長及び取締役と限定。
②人選
アクセスできる者は、信頼のおける従業者等とすべきです。
(4) 物理的管理方法
いろいろな方法がありますが、実行可能な方法を選択すべきです。
①一般的な営業秘密の管理方法
(ⅰ) 秘密表示の方法
従業者等から見て、はっきり分かるように表示することが大事です。
(ⅱ) 保管方法
他の資料とははっきり区別できるように、保管することが大事です。
(ⅲ) 取扱い方法
「持ち出し」や「コピー」を禁止するのがベストですが、それを許可する場合は適切なルールを作成しておき、遵守させるようにするべきです。
(ⅳ) 施設管理の方法
第三者が、施設へ立ち入るのを制限すべきです。
②重要な営業秘密の管理方法
(ⅰ) 保管方法
(例)
保管場所の施錠につき、電子錠を用いる。
(ⅱ) 取扱い方法
・情報持ち出し時の措置を高度化する。
・コピー、複製防止措置を高度化する。
・コピー時の認識可能性を高度化する。
・廃棄手法を高度化する。
(ⅲ) 施設の管理方法
・入室制限の強化等警備体制を高度化する。
・監視カメラ等警備機器を高度化する。
(ⅳ) 他社の営業秘密の管理方法
他社の営業秘密との混同、使用の防止措置をとる。
(5) 技術的管理
営業秘密は、電磁的データとして管理されているケースが多いのが現実です。
そこで、営業秘密の取扱いについては、下記のように「ソフト・ハード」両面から保護する必要があります。
(管理方法の例)
(ⅰ) ルール作り(規程等の作成)
従業者が知っておくべき「情報セキュリティ」のルールについて、規程や文書で明示しておく。
(ⅱ)  システム制限
営業秘密が、不特定多数の従業者にみられないように、技術的なアクセス制限が必要になります。
(ⅲ) 社外に対する管理
・外部からの人の侵入に対しては、警備体制の強化等の対策をとる。
・電子媒体の場合は、ウイルス感染、不正アクセス等の外部からの侵入に対する対応措置が必要です。
(6) 人的管理
①営業秘密を取り扱う従業者等が、「営業秘密」・「「営業秘密の管理ルール」を把握しておく必要があります。
②「規程」等の整備が必要です。
(ⅰ) 新たに入社する従業者に対し
a 雇用契約書
* 信義則上の秘密保持義務確保のため。
b 就業規則・入社時誓約書
* 包括的・一般的な秘密保持義務を課すため。
c 営業秘密管理規程
* 営業秘密に係る秘密保持義務の履行基準として。
d 個別の秘密保持契約(誓約書)
* 高度の秘密を保護するため。
(ⅱ) 退職者に対し
a 秘密保持契約(誓約書)
* 特に、営業秘密に触れていた従業者に対するため。
b 競業避止義務契約
* 重要な営業秘密に関係していた者に対して。
(ⅲ) 派遣従業者に対し
a 派遣元企業との秘密保持契約
* 派遣元が責任を持ち、派遣労働者に指導してもらうため。
(ⅳ) 転入者
元の職場での契約関係を確認しておくこと。
(ⅴ) 取引先に対し
a 契約中に、取引先に対し、自社の「秘密保持規程」を示す。
* 自社の営業秘密の漏えい防止のため。
b 契約中に、取引先に対し、「秘密取扱規程」を示す。
* 自社の取引先の営業秘密の漏えい防止のため。
③秘密保持契約の意義等
重要な秘密に関係していた人物や退職者と、個別に「秘密保持契約」を締結しておくことが大事です。
(ⅰ) 「秘密保持契約」の意義
秘密保持契約とは、営業秘密にかかわっていた人物が、その営業秘密をを第三に漏洩することを禁ずることを約束させる目的で締結する契約のことです。
(ⅱ) 「秘密保持契約」の対象となる情報の範囲
契約で、義務を課す対象となる情報を特定しますが、過度に広範にならないようにすべきです。
(例) ファイル名等により指定する(詳細な特定)
(Ⅲ) 在職時、退職時の秘密保持義務の内容
営業秘密の目的外使用、アクセス権限を持たない者への開示を禁止します。
(例) 「コピーをすること、社外へ持ち出すこと、送信(アップロード等)すること」の禁止
(Ⅳ)  例外規定
対象範囲に、営業秘密に該当する品物があればそれを外す。
(例) 公知情報
(ⅴ) 秘密保持期間
期限を設定することがベターです。
(例) 在職中及び退職後1年間
(ⅵ) 義務違反に対する措置
営業秘密の要件が満たされれば、不正競争防止法に基づき「差止め請求、損害賠償請求、信用回復措置」の請求ができます。
④競業避止義務契約の意義等
(ⅰ) 競業避止義務契約の意義
退職後の従業者等に対し、自社と競合する企業への就職や、競合する事業を、自らが行わない義務を課す契約のことです。
(ⅱ) 競業避止義務契約の有効性の要件
競業避止義務は、職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約となりますので、その契約の有効性の要件は、厳格に判断されます。
(営業秘密の有効性の要件例)
a 営業秘密につき、企業側の「守るべき利益」が存在すること。
* 具体的なものが必要
b 対象を「守るべき利益」に関与していた従業者に絞ること。
c 禁止する競業行為の範囲を「守るべき利益」と比較して絞り込む。
* 一般的・抽象的なものは不可
d 基本的に、競業避止義務に見合う代償措置が設定されていること。
e 期間は、1年以内とすること。
* 1年以上が認められるのは例外的である。
f 競業禁止地域を、職業選択の自由を阻害するような広範なものとしない。
(7) 営業秘密侵害に備えた管理
営業秘密の漏えいに備えた管理等の措置は、「早期発見」と「実行を思いとどめる」ことにつながるので、大事なことです。
①管理の例
(ⅰ) 入退室を管理(台帳への記録・タイムレコーダーの設置)する。
・監視カメラの設置により、書類等の持ち出しを監視、警戒する。
(ⅱ) パソコンの利用状況記録の保存、メール等の通信記録の保存により、データの持ち出しなどを監視、警戒する。
(ⅲ) アクセス権者等が退職した場合、使用していたパソコンのデータを一定期間保存しておく。
②組織的に、日常の管理の運用体制を整備しておく。
(ⅰ) 管理方針等の整備
基本方針、規程等を整備しておく。
(ⅱ) 責任者
・責任者とその権限の明確化
・組織体制の構築と実施
(ⅲ) 問題が起きたときの「事後対応体制」の整備
(ⅳ) 秘密保持ついての教育・秘密保持の周知徹底
(ⅴ) 秘密保持についての日常的な監視 
(ⅵ) 内部監査の実施
(ⅶ) 管理方針等の整備
監査結果等を踏まえ、「規程等」の継続的見直しをする。

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